2011年4月7日木曜日

こんな事にならないように!

ある朝の始まり

台所では女が朝の支度をしている音が聞こえている。
と言っても、米国やオーストラリアから輸入した加工食品だ。
手間も必要ない。

音楽がスピーカーから流れている。
男がリビングルームに寝間着姿で入ってくる。
片手にはiPadを持って。

男は女の手元を覗き込んで、

「また、これ?」

「だって、汚染されてない国内自然野菜なんて、目の玉が飛び出るくらいの値段なのよ?これで我慢して。」

女は素っ気なく応じて、テーブルに皿を並べ始めた。


スピーカーから流れていた音楽が止み、女性の声で気象予報が始まる。

「今日は晴れた良いお天気になり、気温もそんなには高くならないでしょう。
風は北東の風がちょっと強めに吹くでしょう。
そして、放射線雲の流れは、北東の風に乗って、末広がりに拡散しながら、この地方まで流れて来るでしょう。
いいお天気ですが、お出掛けは身支度をしっかりして。出来ればお控えになった方が良いかもしれません。」

そうなのだ。数年前の事故からしばらくして、放射線拡散予報が始まった。風だけではなく、もちろん海洋の方も拡散予報がある。
もうしばらくすると、農業者向けに今年の作付け可能地方予想や漁業者向けには漁業適地と魚種告知も始まるそうだ。事故原発の処理は未だに続いている。処理費用、対策費用はもう途方もない額に膨れ上がっていて、それに群がる企業も世界中から集まっている。

男はiPadでニュースをチェックする。はかばかしいものはなさそうだ。ちょっと顔をしかめている。

身支度を終えた男は、女が用意した朝食を時間を惜しむように済ますと、彼女の頬にキスをしてドアを開け、ガレージに止めた鉛装甲の電気四輪駆動車の充電プラグを抜き、乗り込んだ。

車は、人通りがほとんどない道路に、木の葉を舞い上がらせながら走り去った。

あの原発事故後も、電気はもっと原発に依存するようになっていた。

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